降り注ぐ蝉時雨。






「仁王ー!今日花火やろうぜぃ」


「やらん。」


「・・・即答かよ!」





あの夏のように



蝉は鳴き続ける。
























『夕焼けノスタルジー』























「おまっバカ也!あぶねって!」


「じゃあブン太さんもこっちに向けないで下さいよ!・・・って言ってんでしょうが!熱っち!!」


「・・・・・・・・」





川原の土手に座る俺。



川原に下りて手持ち花火でお互いを危険にさらしていたのは



丸井と赤也だった。





「仁王―!お前もやろうぜぃ!!」


「(やらんって言ったじゃろうが。)」





ぼんやりと見ているだけの花火。



火花はわかるがどうも映えない。



理由は分かりきっている。



ため息一つ。



両手を土手の草の上について空を仰げば、茜色。



丸井と赤也がまだ夕方であたりが暗くなるのを待たずに花火を始めたから。








‘雅治!花火しよ!’







(・・・・・あの時も)







あの時も暗闇を待つことはしなかった。



花火の上の夕焼け。



涙の上の、茜色。
































































































































































































降り注ぐ、蝉時雨。



俺が立海にやってきたのは、中学一年の二学期だった。



テニス部のいわゆるスカウト。



俺はそれを受けた。






「雅治!」


。」


「ね、宿題進んでる?」


は?」


「聞き返さないでよ!進んでないから聞いたんだから!!」






家が隣同士で昔からよく一緒にいた、幼馴染の



夏休みといっても外に出ればすぐにでも会えた。





「・・・・ねえ、雅治!暇?」


「まあ」


「まあって・・・どっち?」


「忙しそうに見える?」


「全然」





は笑うと



俺に言った。










「雅治!花火しよ!」









夏休みはもうすぐ終わり。



夕焼けの空。



は笑っていた。



昔と変わらない笑みで、花火をしようと。






「・・・よかよ」






俺は、



が好きだった。



でも。



・ ・・・・・でも。









「見て見て、雅治!!」


「暗くなるまで待てばよかったじゃろ?」


「時間もったいないじゃない!夏休みは子供には短いんですー!」







よく2人で遊んだ公園で。



買ってきたばかりの花火の袋を開けた。



花火の上の夕焼け。



は花火をつけてはきれいだと言った。



俺は花火じゃなくてを見てた。






を、見てた。






「雅治?やらないの?」


を見てるほうがいい。」


「え?」


「・・・・・。」






蝉が鳴いていた。



一週間の命を必死に鳴き散らしていた。



俺はと目を合わせ



の手に持っていた花火が終わる。



日がなかなか落ちない夏は好きでも嫌いでもなかった。



ただ、



日が長くなってくれるなら、終わりがこないほど長くなればいいのにと思っていた。



夏が終われば、






「・・・ねえ、雅治。」


「・・・ん?」


「・・いつ行っちゃうの?」


「え?」






が新しい花火をつけた。














































「転校、しちゃうんでしょう?」













































俺が、決めたことなのに。





、知って・・・・」


「嫌だな」






夏の終わりが来なければいいなんて。



この夕焼けがずっと続けばいいなんて。



都合が、良すぎた。




















「・・・・嫌だな。・・・・雅治がいなくなっちゃうの」

















夏が終われば、さよなら。



花火の上の夕焼け。



降り注ぐ蝉時雨。



茜色の下で泣く






「・・・・・・泣くな」


「まさはっ・・・・・」


「泣くな、。」






蝉はまだ鳴いているから。



消えた花火。



俺はを抱きしめる。















「俺はが好きでいるとよ。」














お互いの気持ちならずっと前から知っていた。



言葉にしてこなかっただけで。



変わらないこの関係を信じていただけで。



でも、



しばらくはお別れ。


































「ずっとずっと好いとうよ、。」







































まだ蝉は鳴いている。



この夕焼けはまだ夏の色。



夏休みには必ず戻る。



だからまた花火をしよう。



夕焼けの下で。



ここで、一緒に。

























































































































「仁王?」


「・・・・帰る」





俺は川原の土手でいきなり立ち上がった。





「帰るって・・・家に?」


「実家。」


「実家?!」





約束は二年間果たせないまま。



向こうに帰れても、すぐこっちに戻ってきてしまう。



会えても数分で、



花火なんか出来ない。






「実家って!ちょっと仁王先輩!」


「明日も練習あるだろうぃ?!」


「花火したらすぐ戻るとよ。真田にうまく言っといて。」


「は?!花火ってお前、ちょっと待て!!」






丸井と赤也が土手を登って歩き始めた俺に追いつく。



がしっと掴まれた俺の腕。





「丸井、離して。」


「落ち着けって、仁王。いきなりなんでだ!」









































泣いてる、気がした。


















































「今帰らんと、部活にも支障が出るんじゃ」


「無理だって!真田になんて言えば俺たち殴られないんだよ!」


「そうっすよ!明らかに殴られるのは俺たちっす!なぜ止めなかった?って!!!!!」





赤也が怯えていた。



・ ・・・確かに真田の裏手は痛そうだ。



残念ながら俺は受けたことはないが。





「頼む。俺の為に殴られて。」


「「嫌だ」」


「・・・頼んどるのに」





まだ蝉が鳴いている。



汗ばむ手。



蒸した空気。



吹き抜ける風。



花火の上の夕焼け。



あの日が懐かしく。





「・・・・会いに、行かんと」


「・・・・誰にだよ」

















きっとまた、泣かせてる。
















まだ夕焼けがあの夏の色を帯びているうちに。



二度もと夏を過ごせなかった。



夏だけじゃない。



俺は都合がいい。



二年も放っておいて何を今更。



でも。



・ ・・・でも。






「・・・俺の為に殴られて。」


「って・・・!!仁王!!






丸井の腕を振り払って走る俺。



でも、



きっとの上にある夕焼けもあの日を思い出させるほど、



とてもあの日の空に似てるから。

















































































































「雅治!!」











































































































































蝉が、鳴いてる。
































































































!!」


「え?誰?」


「仁王先輩の彼女?」






抱きしめた。



あの時もこんなふうに抱きしめた。



俺の後ろから丸井と赤也の後ろから呼ぶ声。



俺は走る方向を変えて。













「会いに来ちゃった。」












昔と変わらない笑顔でが言った。



会いに、行かないと。



ずっとずっと好きでいるから。



お前も、俺も。




































。花火するとよ。」






































茜色の下で。



花火の上の夕焼け。



あの日のように。



今度は笑うお前と。







「あのっ・・・雅治。」


「仁王。俺たちは結局殴られなくていいんだろぃ?」


「・・・ブン太さん。仁王先輩聞いてませんよ」


「あの・・・花火・・・・」


、好き」


「えっ・・・・・あの」







でも、花火の前に今はもう少し。































































































































この手で、ずっと抱きしめていたい。










































































end.


























*素敵な企画に参加させていただいてありがとうございます。
仁王が好きなのにかっこよくかけない(反省中)
読んでいただいてありがとうございました。