絶対保持。
保てよ、この関係。
全国大会で氷帝は負けた。
俺たちは会場から氷帝に一度戻って。
部員が道具の片付けを終えて
全員が帰っても
俺はコートを囲むコンクリートの階段に一人座って
コートを眺めていた。
「長太郎」
その声は乾いた空気によく響いた
『ゼッタイ』
「まだ帰ってなかったんだね」
「先輩こそ」
先輩の靴がコンクリートの階段を鳴らし、
先輩は俺の座るコンクリートの段に座る。
並んだ先輩と俺の微妙な距離。
近いのか。遠いのか。
「他のレギュラーはすぐ帰っちゃったから、長太郎が一番手」
「え?」
「レギュラー1人ずつに言いたいことがあるの」
先輩はテニス部レギュラー専属マネージャー。
全国大会の最後まで一緒にいてくれた人。
「言いたいこと?」
「お疲れ様とごめん、それからありがとう」
俺は先輩の横顔を見た
先輩が見ていたのはさっきまで俺が見ていたコート
絶対保持。
保てよ、この関係
「全国大会お疲れ様、長太郎」
「・・・・」
別れの言葉ではないのに
お疲れ様。
ごめん。
ありがとう。
3つの言葉は離れ離れのカウントダウンな気がしてならない
「不甲斐ないマネージャーでごめんね」
「(!)そんなことないです!!不甲斐ないなんて・・・先輩は俺たちの立派なマネージャーです!!」
先輩が
俺を見てくれた。
「・・・ありがとう、長太郎。」
その笑顔が、好きでした。
「・・・たまに部活に顔だして下さいね」
「んー・・・あたし跡部や忍足みたいに頭良くないからな・・・勉強しないと・・・」
「そう・・・ですか。」
「でも試合は絶対見に行くよ」
3つのカウントダウンを先輩はあっという間に終わらせて。
俺は成す術も無く。
絶対保持。
保てよ、この関係。
「高等部でも、テニス部のマネージャー続けますよね?」
「・・・あたしの他にもマネージャーやりたい子はいるしね。あたしがやりたくてもできるかはわからないよ」
「跡部先輩達は先輩を選びますよ」
「・・・高等部で跡部達がレギュラーになるの待たなきゃね」
「すぐですよ!先輩達なら!!」
先輩は、
俺を見て笑った。
笑いかけてくれた。
・・・夕日があってよかった。
俺の顔はその笑顔に赤く染められているから。
「あたし、長太郎みたいな後輩ができてよかった。」
その笑顔が好きでした。
場を和やかにしてくれるその声が好きでした。
(俺はただの後輩)
絶対保持
保てよ、この関係
今日を境に先輩達は部活を引退する
いつものようにその笑顔は見られなくなるから。
絶対保持。
保てよ、この関係。
「長太郎、日吉と一緒にテニス部を引っ張っていってね」
「はい」
「がんばってね!」
「はい」
終わった離れ離れのカウントダウンに
俺は成す術も無い
「・・・ごめんね」
「え?」
「ごめんね、長太郎」
先輩の口からごめんは今日で4度目
「先輩、何がです?」
「がんばれしか言ってあげられなくて」
先輩の笑顔が曇る
「がんばってる人にもっとがんばれなんて、あたしは酷いよね」
「(!!)酷くなんかないです!!」
あなたの頑張れは励み
あなたの頑張れはいつも俺の背中を押してくれた
「先輩はつらい時も苦しい時も側にいてくれたから」
側にいて欲しい時、側にいてくれたから。
「一緒にがんばってきたあなただから」
「長太郎・・・」
あなたの頑張れは俺の勇気でした。
その笑顔が好きでした。
好きでした。
「俺も言わせて下さい」
3つのカウントダウン
「今までお疲れ様でした。たくさん迷惑をかけてすみませんでした。」
絶対保持。
保てよ、この関係。
夕日はあなたも俺も染め、カウントダウンはあと一つ
好きなんて言ったらもう頑張れって言ってくれなくなりますか?
笑ってくれなくなりますか?
どうしたら座る2人の距離
縮めることができますか?
「先輩。今まで・・・・・・ありがとうございました。」
夕日が赤をくれなくなった。
空は薄い紫へ。
「・・・・・長太郎が今日今ここに残っていなかったとしても、あたしは初めから長太郎を一番手にするつもりだったんだよ?」
絶対保持。
保てよ、この関係。
「先輩?」
「お疲れ様、ごめんね。ありがとう。」
絶対、絶対。
「あたしはずっと、長太郎が好きでした。」
絶対保持?
保てよ、この関係?
「先輩・・・・」
好きなんて4つ目の言葉
離れ離れのカウントには
似合いませんよ。
絶対打破。
破壊せよ、この関係。
「・・・・・・あっあたし帰る!!」
「はい?」
「ダメだ!ここで振られたらもう学校来れない!!」
勢い良く立ち上がった先輩の腕を掴んだ。
「待ってください!」
「あー!いい!!長太郎いいよ、言わなくて!!突然でごめんね!!」
「・・・・・・俺が先輩を振るわけないじゃないですか。」
打破し、保持せよ。
4つ目の好きは
あなたとの距離を縮めるカウントダウン。
「俺も、先輩が好きなんですから。」
絶対保持。
保てよ、この距離。
あなたが、側にいる。
end.