あなたがあたしの前に現れる時は
いつも傷だらけ
「仁!」
「・・・・・・・・・・・・」
『惹狼』
「・・・・またケンカしたの?」
「・・・・」
「じーん」
「・・・・」
あなたがあたしの前に現れる時は
いつも傷だらけ
これでも大学生のあたし。
一人暮らしのアパートの部屋
ドアの前に座り込んで
なんでもないみたいな顔をして。
「・・・ケンカなんかかっこよくもなんともないんだから。」
「・・・別にそんなこと思ってるわけじゃねえし」
「じゃあなんでいつもケンカするの?」
「知るか。歩いてると売られんだよ」
なら、買わなきゃいいじゃない
言おうとしてやめたのは
あたしが今手当てしている仁のケガが目に入って痛々しかったからだ。
「・・・心配するあたしの身にもなってよ」
仁のケガは痣や打ち身
たまに口の中を切ってくることもある。
あたしはいつも
なんでもないみたいな顔をして
あたしの部屋の前に座り込む仁を部屋の中にいれて、ケガの手当てをする。
「・・・てめぇが勝手に俺を手当てしてんだろ?」
「・・・・なら、あたしのところに来なきゃいいじゃない」
初めて出会った時も
仁は傷だらけ。
あたしの部屋の前に座り込んで。
その時は誰かからか
何かからか逃げてきてここにたどり着いたようだけど。
その姿は痛々しかった。
見つめた仁の目は冷たく鋭く。
一匹狼。
けれど、放っておけなかった。
「あの・・・部屋の中に入りませんか?痛いでしょう?そのケガ」
「・・・てめぇの部屋に入ったからってケガが治るかよ」
「・・・でも」
でも、一匹狼のあなた。
放っておけなかったんだ。
仁は部屋に入ってくれなかったから。
あたしは消毒液やバンソウコウを持ってきて
外で仁の手当て。
「・・・来なきゃいいじゃない。仁が部屋の前に座り込んでなかったらあたしだって心配なんかしないもの。」
「・・・・・」
あの日は部屋の中に足を踏み入れることしなかったくせに
今はあたしが鍵をあければ勝手に上がり込む。
「どうして仁は・・・」
「・・・・・」
「どうしてここに来るの?」
冷たく鋭い仁の目は
あたしを映していた。
仁が、手当てをするあたしの手を掴む。
あたしの手から消毒液の染みたガーゼが落ちた。
一匹狼は住み着いた。
ケガをしなければ帰ってきてくれないけれど。
「・・・どうしてだと思う?。」
鋭く冷たい仁の目
放って置けなくて
勝手な仁は勝手にあたしにキスをする。
「どうしてだと思う?」
そんなの、わからないよ。
何度聞いても
仁は教えてくれないじゃない。
煙草の匂いと血の味しかくれないじゃない。
あたし二つとも好きでもないのに
仁がくれるから
拒めない。
「・・・仁のバカ」
「あ?バカはお前じゃねぇの?」
勝手な仁はもう一度勝手に
あたしにキスをする。
どうして?
教えてよ。
「俺を部屋にあがらせようなんてバカなんだよ。手当てなんてマジでバカじゃねぇか」
なら、ケガなんてしてこないで。
勝手にキスをするくらいなら
煙草の匂いや血の味じゃなくて
愛をちょうだい。
「・・・・ケガなんかしなくても仁なら部屋にいれるもの」
「・・・・」
「仁なら鍵を開けるもの。」
冷たく鋭い目の一匹狼さん。
ケンカなどしなくてもここへ来てほしい。
ケガなどしなくてもここへ来てほしい。
煙草の匂いや血の味じゃなくて、愛をちょうだい。
「仁。ここに来なよ。いつでも」
「・・・・バカじゃねえの?」
「バカで結構。仁もバカだもの。」
どうして?
仁は教えてくれないからわからない。
でも、あなたがここに来るのはあたしに会いたいからだったらいいなって。
そう思う。
「バカ」
「・・・・・・言っておくけどあたしバカって名前じゃないからね」
「・・・・知ってる。」
勝手な仁は勝手にあたしにキスをする。
本日三度目の勝手な。
「。」
わかっているならいつでもそう呼んで。
冷たく鋭い目の一匹狼さん。
ケガなどしないで会いに来て。
あいにきて。
愛に。
勝手にあたしに、キスをしにくるだけでも構わないから。
end.