過ぎていく時間。




巡りいく季節。




そんなものに




恐れ、怯え。


































『巡過思想』













































指先を伸ばす。



触れているか触れていないかわからないほどそっと



けれど確かに。



輪郭をなぞる。



一枚の紙に焼き付けられたその姿を。



輪郭をなぞる。



写真の中にいるを。



部室に置かれた写真立て。



その前にたたずみ、見つめ。



の笑顔が脳裏に焼き付くように。



写真立てのガラスを一枚へだて



写真と一緒に閉じ込めた四つ葉のクローバーに触れる。





〈ガチャッ〉





「侑士ー。何やってんだよ。そろそろ行こうぜ?」


「・・・せやな。」





聞こえてきた岳人の声に



俺はいつもより少し重いテニスバッグを背負い



岳人が開けた部室の出口へと向かう。



本日晴天。



部室からでるとなんとも鮮やかな青が頭上で広がる。



俺たちが今まで使っていたロッカーは今日で空になった。





「何やってたんだよ、忍足。」


「長年使ってた部室にしっかり礼をな。宍戸もちゃんと言うたか?」


「忍足ってそういうところがヘタレなんだCー」


「忍足先輩らしい気もします」


「鳳。忍足なんかに気を使ってたらこの先もたねぇぜ?」


「それひどない?跡部」





俺と岳人がいつものメンツがいるコートの隅まで進む。



それぞれからこぼれる笑みは変わらない。



たとえ夏が終わっても。



今日は





俺たちがテニス部を引退していく日。





「鳳。言っておくが来年は中等部も高等部も同時に全国優勝だからな」


「跡部ー!俺たち来年まだ高等部一年だよー?」


「ジロー。跡部ならすぐレギュラーだぜ?」


「バカか宍戸。てめぇはレギュラーになる気はねぇのかよ」


「・・・くくっ・・宍戸。跡部の言うとおりや。なぁ岳人」


「全員即レギュになれってことだろ?」


「そういうことみたいやなぁ。うちの元部長が言うんわ。」





腕を組んだ跡部が目を伏せて笑う。



宍戸はそんな跡部を見て驚いているようだったが



すぐに俺たちになるほどなと笑ってみせた。





「まっ。今日も日吉は忙しくて来れへんみたいやけど部長のあいつとがんばれや、鳳。」


「はい!」


「また練習見に来るからよ!長太郎、日吉にもそう言っておけよ」


「はい!宍戸さん!!」


「跡部ー!俺がんばるCー!」


「あん?まずは進級試験だろ?とくに宍戸、向日。」


「「げ。」」





冷や汗の2人の姿に起こる笑い。



鳳は宍戸に気を使ってか苦笑気味に。



それぞれの笑みは変わらない。



たとえ夏が終わっても。



跡部、宍戸、鳳、ジロー、岳人。



それから俺。



たとえ繋がりの深かったテニス部を引退しても



俺たちの関係はこれからも変わらないんだろう。



廊下なり昼休みなりで会うだろうし。



後輩の心配と偽って練習を見に来るだろうし。





「・・・・・」





でも。



しばらくはコートに立つことは許されない。



引退した奴らの不文な決まりごと。





「じゃあな、鳳。」


「しっかりやれよ!」


「はい。跡部先輩も向日先輩もまた様子見にきてください!」


「鳳ー。日吉にもよろしくね!」


「ジロー先輩からですね」


「鳳、がんばりすぎんようにな」


「でもがんばれよ、長太郎!」


「はい!」





確かなことがある。



わかることがある。



俺たちの誰から歩みだしたのだろうか。



一歩誰かが歩き出せば



全員がそこから歩きだし。



鳳をコートに残して



俺たちはゆっくりとコートから退く。





「なぁなぁこれから跡部の家で打ち上げだろ?」


「跡部ー!夕飯だしてくれるんだよね!!」


「向日もジローも食うことしか頭にねぇのかよ」


「食べたことのねぇようなもの食わせてやるよ、とくに宍戸」


「・・・・・なんで俺?」


「一番いいもの食べたことなさそうだCー!」


「・・・おい。」





俺の前を歩いていく4人の元3年レギュラー陣。



明るい声が周囲を包み



誰一人、背中を見せているコートに振り向くことはしなかった。











「・・・・・・」











俺以外。










「・・・侑士ー?このまま跡部邸直行らしいぜー?」









俺の足が止まる。



振り向いたコートに



大勢のテニス部員が練習している姿が見える。



鳳も頑張っていた。





「・・・・」


「おい、忍足」


「・・・なぁ跡部。先行っててくれへん?」


「あん?」


「あとからちゃんと行くから」


「侑士?」





コートを見ていた。



今俺に視線をむけているだろう跡部、岳人、宍戸、ジローはどんな顔をしているのだろうか。



見るつもりはなかった。



知るつもりはなかった。





「・・・わかった。」





跡部の声が耳に響き。



みんなの気配が俺から遠ざかっていく。





「・・・・・」





確かなことがある。



俺たちの関係はこれからも変わらないんだろう。



廊下なり昼休みなりで会うだろうし。



後輩の心配と偽って練習を見に来るだろうし。



だが



不確かなこともある。



しばらくはコートに立つことは許されない。



ラケットを握る機会はほとんどないだろう。



そしたら



そうなったら



俺はどこでに会えるのだろう。





「・・・・・」





指先を伸ばした。



触れているか触れていないかわからないほどそっと



けれど確かに。



輪郭をなぞった。



一枚の紙に焼き付けられたその姿を。



輪郭をなぞった。



写真の中にいるを。



部室に置かれた写真立て。



その前にたたずみ、見つめ。



の笑顔が脳裏に焼き付くように。



手放してしまったから。



との繋がり。



わからないから



ラケットを、ボールを持たない今の俺がのためにできること。



・・・・わからないから。



コートの上、部室の写真以外。



どこにいれば



は側にいてくれるのか。



に会えるのか。






「・・・・・」






足が進む。



そこは



あの写真を撮った場所。


















































































































































































「跡部。侑士。」


「「?」」





〈カシャッ〉





いきなりの光。



過ぎればそれはカメラのフラッシュ。



岳人がへへっと笑って跡部と俺を見ていた。



どうやら跡部と俺は岳人の手にしているカメラのフィルムにおさめられたらしい。





「・・・岳人。なんやその使い捨てカメラ。」


「昨日道端でじゃれてる猫がいてよ!マジかわいかったからコンビニでカメラ買って撮ったんだけど
                                フィルムあまちゃってさ。もったいねぇから撮ってもい?」


「聞く前から撮ってるやん」


「向日。今は部活中だ」


「んだよ、くそくそ!休憩中だからいいだろー?」





それはいつもの放課後の部活中。



毎日のように騒がしい休憩中のことだった。





「あっ!向日何それ!!カメラ?俺も撮って欲しいCー!」


「「(・・・ジローが起きた。)」」


「おっ!んじゃあ一緒に撮ろうぜ!侑士!シャッターよろしく!!」


「・・・・」





ジローと岳人がしっかりとピースをだし



ポーズを決めしまいにはジローがウィンクをする。



・・・なんでや



俺の手には岳人から渡された使い捨てカメラ。






「・・・あー。ほな撮るで」






なんで写真撮るだけでそこまでテンションあげれんねん。




〈カシャッ〉




跡部があきれた顔を



半ばあきらめた顔をして



その後もカメラを構え続ける岳人を傍観していた。





「あっ宍戸!鳳!!」


「「?」」



〈カシャッ〉



「向日先輩、なんでカメラを・・・・」


「あー。ええねん。ほっとけ、鳳。」


「なんだよ、どいつもこいつも笑えよな。写真だぜ?つまんねー」


「・・・おい、忍足。」





宍戸が俺を呼んで、ついでに睨んで岳人の制止を要求するが



今は休憩中。



別段、写真くらいいいんじゃないかと思う俺は



岳人を止めようとはしなかった。





「なあ、そういやは?撮ってねえ」


ならボール拾いだぜ?そろそろこっち来るんじゃねえか?っていうか向日、お前激ダサだな。」


「あ?」


「今は部活中だろ?」


「くそくそ!宍戸は跡部と同じかよ!休憩中だからいいだろ!」


「「・・・・・・」」


「岳人、宍戸。何ケンカしてんの?」





宍戸と岳人がにらみ合う一触即発の雰囲気を



つるの一声で緩和する





「あ!、写真撮らしてくんね?」


「・・・・写真?」


「岳人。なんやその聞き方やらしない?」


「それは侑士の思考だろ!」


「・・・・・」





岳人がに向けてカメラをかまえる。




(?)




俺の近くにいるが固まった気がした。





「みっみんなタオルとドリンク持ってった?作っておいたの。きょっ今日も暑いね!」


「あっちょっと!動くなよ、ブレる。」


「がっ岳人!あたし以外に撮ればいいでしょ!」


「レギュラーとか3年は結構撮ったんだよ!いいだろ?一枚くらい!!」


「ぜっ絶交だから!岳人!!あたしの写真撮ったら絶交だから!!」


「・・・?」





が俺を盾にする。



岳人のかまえるカメラの死角になるように



俺をへだててカメラのレンズを遮断する。





「なんでだよ!写真撮るだけだろ!」


「ぜっ絶交!絶対絶交!岳人のバーカバーカ!!」





が俺のジャージの背中の部分を掴んで離さない。



俺にしがみついて岳人を見ずに



絶交宣言。





「「「「「「・・・・・」」」」」」





この場の誰もがこの光景を不自然に思い。



沈黙の中、鳳が口をひらいた。





先輩。まさか・・・写真嫌いですか?」


「だっ、だったら何よ!いけない?!」


「「「「「「・・・・・・・・」」」」」」





てきぱきと仕事をこなし



テニス部員を丸め込むならお手の物。



誰にも文句は言わせない。いや、言うことなんてできない。



そんな、俺たちのマネージャーの弱味を



俺たちが初めて知った瞬間だった。





「・・・岳人。カメラ貸しぃや」


「おっ忍足!撮ったら絶交だからね!!絶交だから!!」


((((((・・・・おもしろい))))))





岳人が俺にカメラを渡すと



今度はが宍戸の背中に隠れる。



宍戸のジャージにしがみつき



その光景は俺たちにとって初めて見るが慌てている姿。



おもろくないわけがない。





「・・・おい、全員で撮るぞ」


「けっ景吾!何言ってるのよ!あたし撮らないからね!!」


「・・・なんでそんなに写真嫌いなんだよ、。」


「宍戸!だってあたし写真映り悪いんだよ!!」


「「「「「「(・・・・おもしろい)」」」」」」





必死に何かを嫌がるなんて



誰も見たことがない。



慌てるがおもしろい。





「でも撮ったことないですよね、みんなで写真とか」


「撮ろうよ!!思い出だよ!!」


「なんの?!」


(((((((先輩)の弱味を知った))))))





宍戸がすばやく動いての後ろへ回りこむ



俺たちはを囲むようにして立った。



確かに



をからかえる機会なんか滅多にないから



それも含めてこんな状況なんだろうが



俺は本当に



と写真が撮りたいと思い始めた。



鳳の言ったとおり



全員でいる‘形’を一度も撮ったことがない。





「だっだって思い出は写真に残すものじゃなくて心に残すものでしょう?!」


「あんなぁ。そこまで嫌がることないやん」


「写真映りがわりぃとかどうせ思い込みだろ?」


「景吾!あたしは深刻にっ・・・」


「いいでしょ!撮ろうよー!」


「ジローちゃん・・・」





きっとみんな同じなのだと。



をからかえる機会なんか滅多にないから



それも含めてこんな状況なんだろうが



今は本当に



と写真が撮りたいとそう思うだけなのだろうと。





「ええやん。心にも写真にも残そうや。思い出」


「・・・・・思い出?」


「いつも一緒にいましたって思い出。」


「・・・・・」


「仲のええ証拠。」





もう部活の休憩時間は残っていなかった。



他の部員がコートへと繰り出し始める中。



が俺たちの囲む中央でうなずいた。



部活が終わって自分の撮りたい場所でなら撮ってもいいことを条件に。



が部活が終わって俺たちを連れて行った場所。



それが学校の裏庭。






!何ここ?こんなとこあるなんて俺知らなかったC!」


「・・・・裏庭?」


「うん。ここだよ、景吾。あたしのお気に入りなんだ」


「ええ場所やな」


「俺も好きだぜ。こういう場所。飛んでも文句言われなそうだし」


「いや。飛ばんでええて岳人」






手入れのされた芝生



端の方には小さな草むらと花。



木々に囲まれたそこは



いわく知ってる人の少ない



静かで落ち着く場所なんだとか。





「そんなとこ俺たちに教えてよかったのかよ」


「いいんだよ、宍戸」


「あの・・・・」





鳳が遠慮がちに言った言葉に全員が耳を傾けた。





「誰がシャッターを?」


「「「「「「・・・・・」」」」」」





視線は全員岳人が手にする使い捨てカメラに。



そしてそのまま視線は岳人の顔に。





「・・・・・俺?!」


「次は別の奴が撮ればええやん。」





しぶしぶと承諾する岳人を傍目に



始まったのは場所とり合戦だった。



もちろん、の隣で写真に映るべく。



この頃の宍戸はまだ自分の想いに気付いてなくてすぐに戦線離脱。



跡部はそつなくなにげにさり気なくいつの間にかの隣にいて動こうとしない。



俺は鳳とジローと目を合わせた瞬間即座にの隣に回り込んだ。




(天才なめたらアカン)


(下克上ですね。・・・・あ、これは日吉か。)


(あとでに抱き付くからいいC)

























「撮るぜー」

















<カシャッ>























































































































































































写真は一枚しか撮れなかった。



フィルムがちょうど終わってしまったから。



写真は岳人がに渡した。



はそれを部誌に挟んでいた。



きっと



部誌を開くたびに



苦笑いしながら写真を眺めていたんだと思う。





「なんで写真撮ってもいいって思ったん?」





写真を撮り終えて俺はに聞いた。





「・・・侑士が心にも写真にも残そうって言ったから」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「いつも一緒にいましたって。仲がいい証拠。」


・・・」


「見たいなって。欲しいなって、そう思ったんだ。」





いつも一緒に。



いつも。



が笑った。



写真映りは悪いけどと、それでも、写真を撮ったこと。



とても、うれしそうに。







がいなくなって。



その写真は、の笑顔を刻んだまま俺たちの手元に残った。





























































































































































































































































なぜ、なのか。



が教えてくれた学校の裏庭でたたずむ俺。



空が青から赤に染まり始める。




(・・・なんで。)




こんな想いを抱くのか。



わかっているはずだ。



知っているはずだ。



こんな想いを抱くのは何度目なんだ。



わかっているはずだ、知っているはずだ、納得したはずだ。



あの写真が教えてる。



はいなくなっても、ずっと俺たちの側にいてくれていること。



誰よりも俺たちを想ってくれていること。



・ ・・・・・・でも。




(でも。)




手放した。ラケット、ボール。



今の俺にできることはなんだ?のためにできることはなんだ?



俺とをつなげていたもの今は何も。



何一つ、ありはしない。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





・ ・・わからないんだ。



たとえ来年再びコートの上に立っても、それまでの空白の時間。



は?はどこにいる?



空白の時間のあと。はまた俺たちの、俺の側にいてくれるのか?



・・・・・わからないんだ。



前にも似たような想い、確かに抱いていて、



確かに答えを持ったはずなのに。





(・・・側にいる。なら側にいる。)





なぜ?



今までそれを信じて疑わなかった。



見つけた四葉のクローバー。もう一度会えた



あれは事実。この想いは真実。



側にいると言ってくれた。



なのに、なぜ?



今更、また何度も何度も同じ想いを繰り返す?




























(違う。・・・・・・・ちゃうねん。)












































違う。



信じていないんじゃない。



自信がない。



に会える日を信じている自分をが今も側にいてくれることを信じている自分を






心のどこかで疑ってる自分がいる。






俺が隠していた心の一部。



俺の中の俺が冷めた目をして笑ってる。



会えるものかと。もう二度と会えるものかと。



が側にいるはずがないと。





(・・・・・・・・・・・・・・・・・違う)





会える。また会える。必ず会える。







会えない。







会える。






会えるはずがない。






必ず会える。







はどこにもいない。







違う。いる。側にいる。今日まで確かに俺たちの側にはいてくれた。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なら、




































































































































































































これからは?








































































































































































































































コートの上から退き、



ラケットを手放し、ボールを持つことのない俺に



もうのためにできることはない。



もうが俺の側にいる必要はない。



また来年、コートの上に戻ってもその頃にはへの想いなんて薄れてる。



忘れるな。



季節も時間も、過ぎて巡り、俺はその中を歩いていく。



は眠ったまま。二度と目を歩き出すことはない。



会えるわけがない






「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





過ぎていく時間。



巡りいく季節。



そんなものに



恐れ、怯え。



には



・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・二度と。







































































































































































「忍足」






















































































































































































































































































いつかのの声が俺を呼んだ。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちゃうわ。」





たとえ、誰が否定したって。



俺が俺を否定したって。



変わらないことがある。






「・・・・・・・」






仰いだ茜色に落ちていく空が



俺の声を吸い込んでいく。





「・・・・会いたい」





できるなら



時間も季節も巻き戻れ。



が側で笑っているときから



そのときからもう一度と歩きたい。



今日まで一緒に歩きたい。



伝えたい。



たとえを困らせるだけだとしても



それでも俺はを想うから。



今も誰よりも好きだと



あの日の



今のに伝えたい。






「・・・






苦しくて。



何もかもが苦しくて。



茜色の下。



変えようのないもの。



ただ想い続けること。



信じたい。



俺が俺を否定したって側にいる。



がいてくれる。



会いたい。



変わらない想いこそが真実。



過ぎた過去こそが事実。



俺たちに嘘なんか



一度もついたことのないだから。



たとえすべてが過去に変わっても











「私がいるよ」











・・・・信じている。



信じているはずなのに。



変わらない想いこそが真実。



過ぎた過去こそが事実。










でも。









でもな、



心が、もう会えないのだと叫ぶから。









「・・・会いたい。・・・会いたいねん・・・」









俺はここにいる。



は今どこにいる?



今一度会いたい。



届いてほしい。



待ってる。待っているから。



また会えるその時まで。



だから、俺を否定する俺でさえも



信じさせてほしい。



今一度、会いたい。



会える。



きっと、必ず。



だから。























だから、どうか



今一度。



心から信じることのできる強さを与えて。





























「・・・・・好きや・・・」




























届け。



今もこんなにも好きでいること。



届け。



ずっと待っていること。



俺はここにいる。



は今どこにいる?



茜の空が俺の声を吸い込んでいくから。



こんなに好きなのに。







































































































































































伝わらない。

















































































































































































































































































夏の匂いが



まだかすかにしていた。





「・・・・・・・・・・・・なんや」





俺の視線はうつむいたと同時に



赤から足下へ茂る緑へ。



・・・・ああ。



そんなところに。











「・・・なんや、。・・・・・お前」










柔らかな、夏の最後の風が吹く。



かすかな匂いを連れ去ろうとする風に吹かれ、



はかなげに、頼りなく。



けれど確かに。



俺の足下に静かにそっと存在した







四つ葉の、クローバー。















「そんなとこに、おったんか」














一枚の紙切れに焼き付いたの笑顔。



俺の脳裏に焼き付いたの笑顔。



ゆっくりと片膝をついてその場にしゃがみ



指先を伸ばして、そっと触れた。



咲き誇る4枚の葉に。



かすかに揺れ、優しく揺れ。



その姿がの笑顔と重なり。





「・・・聞いてたん?最初から最後まで。」





柔らかな、夏の最後の風が吹かれ揺れる。



はたから見れば草に話しかける、



俺はおかしな人間。



そんな自分の姿を客観的に想像して苦笑し



揺れる姿がうなずいているようで



笑っているようで。



そんな四つ葉の姿に恥ずかしさをごまかす笑みを贈る。








「・・・・会いにきてくれたん?・・・ありがとうな」







俺の中の俺が冷めた目をして笑うのをやめた。



会える。



また会える。必ず会える。



待ってる。待っているから。



誰が否定したって。



俺が俺を否定したって。



会いたい。



この想いは真実。変わらない真実。



だから、会える。






「・・・・






あの時のに。



今のに。



届け。



今もこんなにも



誰よりを想っていること。



あのときのに。



今のに。



風ではなく俺の指先がクローバーを揺らした。



俺は立ち上がり



鮮やかな緑の葉を見つめ



空を仰いだ。



そろそろ、行かなければ。



今日ともにしばらくテニスから離れることになった仲間のところに。



同じ想いを抱いて。



会えると知っているから一緒に歩いていける。









「・・・・・・ありがとう」









心から信じる強さを。



揺れるその姿が



うなずいているようで



笑っているようでうれしかった。



咲き誇る四つ葉のクローバーに。



茜色の下でまっすぐ俺に向いてくれているその緑に。








「忍足」








いつかのの声が、俺を呼んだ。




(・・・もらってばかりやな)




弱気になって



隠している心が負の方向へ傾いて。



それでも、は側にいてくれる。





(・・・会える)





必ず会える。



いつだって側にいる。



だから歩き始めた。



四つ葉に振り返ることなく。



きっと文句を言いながらも



俺が来るまで手を付けまいと目の前の食事を我慢し



腹をすかせているだろう岳人やジローを予想して



小さく苦笑いを浮かべながら。



心が、叫んでる。



会えるから。



待ってる。待っている。



あの日から、歩いてたんだ。



初めて会った日から、今日まで一緒に。






。」






今一度、届け、この声。



何度だって呼ぶから。



声が枯れたって呼ぶから。



その名前を呼ぶから。



跡部の家へ向かう足取りは一度も止まらなかった。



立ち止まって振り返ることはなかった。



そんなこと必要なかった。












一緒に、歩いているから。










待ってる。待っているから。



想っているから。



時が過ぎ、季節が巡り。



に会えるその時まで。



心から確信して。



俺は待っているから。





















































































































































































いつまでも、待っているから。
































































End.                                    気に入っていただけましたらポチッと。